ヘルニアとは臓器が正常にあるべき位置から、隔壁の弱い部位あるいは脆弱した部位を通過し、薄い膜につつまれて非生理的な位置へ脱出することです。腰のヘルニアとは腰椎の椎間板のヘルニアのことで整形外科的疾患です。鼠径ヘルニアとは、下腹部と足のつけ根の間に生じるヘルニアのことです。
脱出時(脱腸時、膨隆時)に引っ張られるような痛みや軽い鈍痛を伴うこともありますが、ほとんどが無症状です。
成人ヘルニアは自然治癒することはなく、次第に増大し、また常に嵌頓(かんとん:脱腸の状態がもどらなくなること)の危険性があり、基本的には全例に手術適応があるとされています。過去にはヘルニアバンドが勧められたことがありましたが、ヘルニアバンドはヘルニア内容の脱出を完全に防げるものではなく、圧迫により浮腫を来したり、筋・腱膜組織を委縮させ、かえってヘルニアを増大させたり、ヘルニア周囲の炎症により癒着を起こし手術を困難にすることがありますので勧められません。
鼠径ヘルニアの手術は、ほとんど侵襲がなく、しっかりした術前・術後管理と麻酔法の選択により安全に行うことができます。当院ではメッシュという補強材を使用した治療法が中心で、数日から約1週間の入院期間を要し、安全のため日帰り手術は行っておりません。
下腹部と足のつけ根との間に時々ふくらむような症状がある方は鼠径ヘルニアの可能性が高く、診察時にご相談下さい。
参考文献:ヘルニアのすべて;冲永功太、へるす出版